そもそもアメリカは、興味のある国ではなかった。
歴史が浅いから文化もなくて、人々はバカで単純で田舎臭くて、というイメージ。
興味がないので、留学してみたいとか住んでみたいとかっていうのは思ったことが無いし、オハイオ駐在以前はハワイとNYしか行ったことが無かった。
住んでみての感想は、そう悪いところでもなかったかなぁというところ。でもイメージ通りなところもあるし、意外と気に入った部分もある。「だからイヤなんだよこの国は」と「この国のこういうところはいいなぁ」が交互にやってきて、賑やかな毎日である。
そして昨日土曜日は、そんなのが数分置きに交互にやってきた1日だった。
私と夫は昨日、家から10分の中華バッフェへランチに出かけた。たらふく食べた後、買い物しにアジアンマーケットに寄り道した。そして家に戻る途中の出来事。
片側二車線のまあまあ大きな道路で、信号待ちしていて、青に変わった。前の車も発進し、ブレーキを踏んでいる足を離した直後だったと思う。ズガゴン!と追突されてしまったのです。
運転していたのは私。あっけに取られてふと隣席の夫を見やると、「いって~」と頭を抱えて唸ってる。シートベルトをしていない!
「ちょっと、だーからたとえ短い距離でもちゃんとシートベルトしないと駄目っていつも言ってるでしょこういうことがあるから!なーんでしてなかったのよ!」
と一気にまくし立てる私。しかしふと心配に。「・・・大丈夫?どこ打った?」、夫「頭~。首も痛い~。でも大丈夫~。」・・・ひとまず安心。しかし私も目の辺りがなんか痛い。ミラーで見たら、目の上が軽く切れてる。眩しかったので下げていた日よけに当たっちゃったらしい。
すぐには動くわけにはいかなさそうな夫を車内に置いて、私は追突してきた車を見に行った。その車の前はぐちゃぐちゃ、ボンネットはくの字に曲がっちゃっている。運転席にはなんだか若い、黒いパンクのTシャツを着た兄ちゃん。私を見るなり「I'm sorry, I'm sorry ma'am, I'm sorry, 全然見て無くて・・・」とまくしたて、なんだかパニック状態。それもそのはず、彼の車の全てのエアバッグが出ちゃってる。
私はまず驚いた。この兄ちゃんがごめんなさいを3回も言ったからである。アメリカ人はこういう時絶対謝らないとよく言うけど、それは本当だ。それなのに3回も言っちゃってるのだ。
まそうだよね、明らかにあんたが悪いもん。っていうかブレーキ音もしなかったわよ、あんた何やってたのよと一瞬の内に色々考えていたら、横に乗っていたおばさん(どうやら彼の母親らしい)が、どうも息子が何回もsorryを言っちゃったのがまずいと思ったらしく、まだなんか言ってる彼を制止するかのように、「This, airbag thing...」と言いながら手でパタパタ扇いでゴホゴホする振りをしている。確かにエアバッグの粉かなんかが飛び散っているようである。
私は頭に来た。この国の習慣「I'm sorryは是が非でも言わない」を忠実に守ってるのは百歩譲って良いとしても、自分の息子がぶつけた車に乗っていた者に対して、「大丈夫でしたか?」の一言も無いのかよ!!!開口一番が「この、エアバッグってのは・・・」ってどういうこと?
私はむかついたのでそれは無視して、そのおばはんが手にしていた携帯電話を指差し、「Did you call police?」と睨みつけた。おばはん、真剣な顔に戻り「Yes, I did.」。
ふんっときびすを返そうとしたら、横に恰幅の良い黒人のお兄さんが立っていることに気がついた。どうやらアホアホ親子の後から来た車の運転手らしい。
お兄さん、「君は大丈夫だったかい?」と心配してくれる。「私は大丈夫。夫は頭と首と足をを打ったので今動けないの。助けてくれてありがとう」と、おばはんとバカ息子に聞こえよがしにお礼を言う。
すると今度は白人のお姉さん、「大丈夫~?私、反対側走ってて、びっくりしちゃった~」とやってきた。どうやらUターンして戻って来てくれたようである。私はまたまたお礼を言う。
するとまたまた対向車線を走っていた若いカップルが、車をスローダウンして「大丈夫?携帯電話持ってる?あらやだ血が出てるわよ!」とまたまた心配してくれる。もう警察は呼んだから、ありがとう。またまた私はお礼を言う。
本当にこの国の人達は、こういう時に躊躇無く助けの手を差し伸べる。もう誰かが助けてるから大丈夫かなーと見過ごしたりはしない。何かまだ出来ることはありますか?と必ず声をかける。
たくさんの見習いたいことの中の一つである。
そうこうしている内にまず消防車が。そして救急車が、パトカーが。
救急隊員のお姉さん、まあ大したことはなさそうだけど、うちの夫は頭を打っているのでレントゲンを取った方が良いと言う。救急車で病院に連れて行ってくれるというので、お願いすることにした。
先に乗れ、と言われたので、私は歩いて救急車に。座ってシートベルトをしていると、ストレッチャーに乗せられて夫登場。首にギブス、顔まで覆われて、なんだか重傷人みたいに見える。あの大バカ親子も見たに違いない。せいぜいビビッたことであろう。いい気味。
なーんて思ってたら、持って来た財布の中に免許が無いことに気付いた。さっき婦人警官に渡したままだ。
救急隊員のお兄さんにそれを言ったら、警察が後から病院に来るはずだから、と言う。
しかし、私の目の傷(絆創膏も貼られなかった)を見てもらった後も、夫がレントゲンを取った後も(まったく異常なし)、警察の来る気配は無い。
仕方が無いので病院の人に問い合わせしてもらったら、やっと来た。どうやら忘れていたらしい。しかも、私の免許、失くしたって・・・。
失くした??? ・・・まったくこれだから!なんて仕事がいい加減なんだ!また謝らないし。
しかも、私の車がどこにあるかも知らない。どこかに問い合わせして、レッカー会社の名前だけわかった。家に帰って電話帳で電話番号を調べて、電話する。
車の中に豆腐を残してきてしまって、放っておくと腐ってしまうので、持ってきてもらった。
レッカー会社の若いお兄さんはとても親切で、「保険会社に電話した?したのに代車が無いの?修理屋に電話しても手配してもらえなかったら、僕に言って。代わりに電話してあげてもいいよ。君の落ち度じゃないんだし、相手の保険で何でもカバーされるから」と、無理を言って夜遅くに豆腐なんかを届けてもらったのに優しいし、その上まだまだ助けてくれると言う。
隣に奥さんが座っていて、「ところで、私トーフって食べたこと無いんだけど、どうやって料理するの?」だって。うーんとね、ミソスープに入れたりとか、ソイソースかけて食べたり・・・。
もうなんでもいいや。とにかく頭に来たりありがたかったり面白かったり、忙しいんです。
明日は朝もはよから、修理屋と代車の手配をしなくちゃ。
それにしても、黒人のおまわりさんの英語が、またまた全然わからなかった・・・。
横にいたカリフォルニア出身のおまわりさんが、通訳してくれましたよ。
やっぱり打倒南部訛り。
グリーンの紙が警察からもらった事故証明書。
その他、病院の診断書、手首に救急患者としてつけられちゃったテープ、等々
私は誰かに殴られたみたいな顔に。夫は首や頭は大丈夫だったけど足が肉離れ。